※刺激的な表現・写真も含まれるのでご注意下さい。
秋晴れの山中で、「三重県鍼灸師会スキルアップセミナー」と題して、鹿の解剖実習を行いました。
なんと、生きた鹿を捕獲して、屠殺する所から解体、そして食すところまでをやってしまおうという企画です。
私達鍼灸師は、解剖の座学を始め、大学病院などで人体解剖実習などを行いますが、紙の上での知識であったり、ホルマリンで固定された生体とは程遠いご献体なので臨床の中で皮膚の下の組織をイメージし辛いという問題があると感じていました。
私はたまたま父が猟師もしていて、毎年鹿や猪を数十頭捕獲しており、時には解体を手伝う時もありました。
初めて解体したときの感動。
皮を剥ぐときらきらした筋膜が現れ、その下には真っ赤な筋肉が。
神経、血管、リンパ管、関節など、解剖書と照らし合わせながら生きた組織の構造を見ることができました。
匂いや手触り、温度を伴った解剖の学習は新鮮で、新たな学びが満載でした。
また、今まで生きていた動物の命が途絶える瞬間に立会い、食べるところまでの繋がりの中で、「命」に対しての畏敬やありがたみを感じることができました。
そうしたすべての事を、仲間の鍼灸師、そしてこれから社会に出ていく子どもたちに見てほしいと願っていた企画がようやく実現しました。
前夜祭
今回の研修会は1泊で行いました。
会場は私の実家の山小屋。
夜に山小屋につき、薪ストーブ燃え盛る部屋で囲炉裏を囲みながら、酒を飲み、さまざまな事を語り合いました。
星がキレイな夜で、東京から来た先生は非常に感動していました。
「火には心を開放し、気持ちが一つになる力がある」
父の言葉通り、懇親会や飲み会では出てこない言葉や感情があり、非常に美味しくお酒が進みました。
鹿の命を頂く
次の日の朝は夜明けと共に目覚め、朝ごはん。
そして、鹿が捕まっている場所に移動しました。
猟には、猟銃で仕留める方法と、罠で捕まえる方法があります。
罠にも、鹿が上に乗ると足がパチンと挟まるくくり罠や大きな鉄のゲージの中に米ぬかなどの餌を入れ、中にはいると戸が閉まる箱罠があり、今回の鹿は箱罠で捕まったまだ小さなメスの鹿でした。
僕たちが近づいていくと、何かに気づいたのか、怯えた目をして暴れだしました。
「可哀そう」という気持ちが心をよぎりました。
まずは合掌。これから頂く命のために祈りました。
そして父が鉄の箱の中にはいり、鹿を羽交い締めにして外まで連れてきました。
バタバタと暴れようとしていましたが、手足を押さえられてどうしようもありません。
首の頸動脈にナイフを当てると
「ブシュッ」と空気の抜ける音と共に赤い血が流れ出ました。
鹿の呼吸が荒くなり、目の力がなくなり、ものの数分で力尽きました。
参加者の中には目をそむける人もいましたが、子どもたちも皆、真剣な眼差しで一連の仕事を見守っていました。
何を感じたのでしょうか?
雄の鹿や、猪の場合は、羽交い締めにして外に連れ出すなんて事は非常に危険ですので、檻の外から槍で心臓を突くそうです。
解体
鹿を軽トラックに積んで、会場へ戻り、まずは内蔵を取り出す作業です。
ナイフでお腹を割くと、ドロっと腸や胃などの腹部臓器が出てきました。
まだホカホカと温かく、湯気が出ています。
心臓、腎臓、肺、肝臓など、もし深く鍼をしすぎると刺さってしまう臓器の感覚を、繰り返し確かめました。
想像以上に簡単に鍼が通っていくことに、改めて刺鍼深度を守ろうと気持ちが引き締まりました。
次に毛皮を剥いでいきました。
ナイフを皮にそって走らすと、スーッと皮と浅筋膜が離れていきます。
場所によっては、手で引っ張ると剥がれる部位もありました。
薄くほわほわとした筋膜は、蜘蛛の糸に朝露が降りているかのごとくキレイで、キラキラと光っていました。
今流行りの筋膜リリース。
ここに注射針を入れて生理食塩水を注入すると確かに滑走がよくなるんだろうな。
フォームローラーや、マッサージなどでリリースしようとしても、陰圧がかかる、押圧や圧迫などでは、とても緩む、剥がれるといった現象は起きないんだろうなと色々と考えながら触っていました。
鍼灸の手技には、仮坐刺という方法があります。目的の場所に刺入し、鍼を回旋させて筋膜に鍼を絡みつかせた状態で持ち上げると組織が緩みます。
実際にやってみると、確かに筋膜は持ち上がり、持続的に引き上げたり、揺らす事でリリースできそうな事が確認できました。
昨年、巨人の選手に対しての刺鍼で神経損傷が起きた可能性があると大きな問題になりました。
「鍼灸の鍼は、注射針などと構造が違い、組織を避けて動いていくので、神経には刺さらない」
といった事を書いている方も多かったのですが、実際に鹿の坐骨神経に刺してみると、驚くほど簡単に刺さりました。
動脈、静脈も同じです。
もちろん、生きた組織とは違い、少し変性が始まっているのでしょうが、
「鍼は神経に刺さる」
といった前提で刺鍼を行う必要があると改めて感じました。
その他にも、鍼灸で用いる電気やお灸などがどのように組織に作用するのかをマイクロスコープを使って観察しようとしましたが、上手く撮影できなかったので、次回のテーマに持ち越したいと思います。
食す
沢山学んで、2時間もすると、さっきまで生きていた鹿は、精肉されたお肉になっていました。
BBQのスタートです。
石窯では、ピザがどんどん焼き上がり、焼き芋もホクホクと湯気を立てていました。
鍼灸師会の事務職員さんが差し入れてくれた土手煮もグツグツ。
炭の上では、鹿肉、野菜などが焼き上がりました。
大人たちが鹿と戯れている間に川やツリーハウス、スラックラインで遊んでいた子どもたちも集まり、お腹いっぱい自然の恵みをほうばりました。
初めての鹿肉で、はじめは恐恐だった参加者も、一口食べて「美味しい!」とにこにこ。
楽しい一日でした。
今回は、大人が20名、子供が13名の参加がありました。
主に僕たちと同世代の仲間たち。
これから数十年この業界にいる限りはお付き合いしていく方たちです。
それぞれの得意分野、興味のある分野を高めて、皆がプロフェッショナルとして伸びていけるよう、微力ながらお手伝いさせていただきたいと思っています。
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