もしかすると身近な過敏症
聞き慣れない症状名です。しかし、現代を生きる私たちにとっては誰でも発症しうる病気かもしれません。
私がこの病気を身近に感じ始めたのは数年前のことでした。
当時、妻が通っていた大学の講義の中で、化学物質過敏症の患者さんが登壇し、病気の発症から現在に至るまでを語ってくれたそうです。驚いたことに、その方は科学捜査班が使うようなガスマスクを装着し、冬の寒い時期にかかわらず、教室の窓は全開。そして講義が終わると倒れこむように帰って行ったそうです。
大学は若い学生達の通う場所です。
化粧や香水、整髪料、タバコなど様々な匂いがします。また、私達では感じない本やボールペンのインクの匂い、校舎に使われる塗料や木材などにも敏感に反応をし、ガスマスクで防御していたにもかかわらず動悸、めまい、頭痛などの症状が引き起こされたようでした。
そしてその数カ月後、知人のお連れの方(Bさん)が化学物質過敏症及び、電磁波過敏症であることを知りました。
数年前までばりばりのキャリアウーマンであったBさん(仮称)は、ある時、なんとなく体調不良を感じ始めます。
最初は「仕事の疲れ」と気にしていませんでしたが、そのうちに起き上がることもできないくらいの頭痛、めまい、吐き気、動悸などが起こるようになり、様々な病院で検査を受けるも「異常なし」と言われます。
自分ではどうしようも無い位に苦しいのに、診断名はつかず、周りの理解も得られずに一人悩み続けたそうです。
たまたま巡りあった病院で「化学物質過敏症および電磁波障害」と診断されてからも特に効果的な治療法は無く、理解のある病院での入退院を繰り返し、過敏症患者の療養施設を転々としていましたが、縁あって三重県へ移住をし、化学物質や電磁波から隔離された環境で暮らしています。
ごくごく普通の暮らしをしていて過敏症になったBさんですが、「これは誰でもなりうる病気なんです」と語ってくれました。
化学物質過敏症の発症原因
化学物質過敏症とは
「 特定の化学物質に接触し続けていると後に、人体の薬物や化学物質に対する許容量を超えて、非常に微量の薬物やある種の化学物質の暴露によっても、健康被害が引き起こされる状態」
とされています。
新築の家のボンドや塗料が原因で発症する「シックハウス症候群」は一時期大きなニュースになりました。
- シャンプーやパーマ液を使用する美容師さん
- インクを扱う印刷業
- 化学工場の労働者
- 消毒液・薬剤に囲まれる病院関係者
- 農薬・化学肥料を扱う農家
- 塗料や有機溶剤を使用する建築関係者などなど、
現代社会において、化学物質と縁がない職種を探すほうが困難なくらい世の中には化学物質が溢れています。
家庭生活においても
数え上げるとキリがありません。
こういった普段当たり前に接している化学物質に繰り返し接触をし続け、自分の許容量を超えた時に突然発症するのが過敏症です。
身近な例でいうと「花粉症」があります。発症するまでは杉やヒノキ・ブタクサなどの花粉が舞っていても何ともありませんが、一度発症するとくしゃみ・涙・鼻水が止まらなくなります。
化学物質過敏症の症状
過敏症患者の症状は多岐に渡り、個人差があります。
- 【目】かすみ/視力低下/物が二つに見える/目の前に光が走るように感じる/まぶしい/ちかちかする/乾き/涙が出やすい/ごろごろする/かゆみ/疲れ/目の前が暗く感じる
- 【鼻】鼻水/鼻詰まり/かゆみ/乾き/鼻の奥が重い/後鼻腔に何か流れる感じがする/鼻血
- 【耳】耳鳴り/痛み/耳のかゆみ/音が聞こえにくい/音に敏感になった/耳の中がぼうっとする感じがする/耳たぶが赤くなる/中耳炎/めまい
- 【口やのど】乾き/よだれが出る/口の中がただれる/食べ物の味が分かりにくい/金属のにおいがする/のどの痛み/のどが詰まる/ものが飲み込みにくい/声がかすれる/喉頭に浮腫ができる
- 【消化器】下痢や便秘/むかむかして吐き気がする/おなかが張る/おなかの圧迫感/おなかの痛みや痙攣/空腹感/胸焼け/げっぷやおならがよく出る/胃酸の分泌過多/小腸炎や大腸炎
- 【腎臓・泌尿器】トイレが近くなる/尿がうまく出ない/尿意を感じにくくなる/夜尿症/膀胱炎/腎臓障害/インポテンツ/性的な衝動の低下や過剰
- 【呼吸器・循環器】せきやくしゃみ/呼吸がしにくい/呼吸が短くなったり呼吸回数が多くなる/胸の痛み/息遣いが荒くなる/喘息/脈が速くなる/不整脈/血圧が変動しやすい/皮下出血/寒さに対して皮膚の血管が過敏になる/血管炎/にきびのような吹き出物が出やすい/むくみ
- 【皮膚】湿疹、蕁麻疹、赤い斑点が出やすい/かゆみ/引っ掻き傷ができやすい/汗の量が多い/皮膚が赤くなったり青白くなったりしやすい/光の刺激に対して過敏になる
- 【筋肉・関節】筋肉痛/肩や首がこる/関節痛/関節が腫れる
- 【産婦人科関連】のぼせたり、顔がほてったりする/汗が異常に多くなる/手足の冷え/おりものが増える/陰部のかゆみや痛み/生理不順/不妊症/生理が始まる前にいらいらしたり、頭痛、むくみなどがある/感染症にかかりやすくなる
- 【精神・神経】頭が痛くなったり、重くなったりする/手足のふるえや痙攣/うつ状態や躁状態/不眠/気分が動揺したり不安になったり精神的に不安定になる/記憶力や思考力の低下/食欲低下/いらだちやすく怒りっぽくなる
- 【その他】貧血を起こしやすくなる/甲状腺機能障害
宮田幹夫・北里研究所病院臨床環境医学センター客員部長著「化学物質過敏症」(保健同人社)より
化学物質過敏症の診断
化学物質過敏症は日本においては2009年に病名リストに登録され、いままでばらばらの症状として捉えられていたものが1つの病名として診断される事となりました。これにより、今まで「気のせい」「精神疾患」「自律神経失調症」「なまけ病」などと言われ、肩身の狭い思いをしてこられた患者のみなさんも少しは気が楽になったと言います。
化学物質過敏症の診断基準
主症状として
副症状として
- 咽頭通
- 微熱
- 下痢、腹痛、便秘
- 集中力、思考力の低下、健忘
- 興奮、精神の不安定、不眠
- 皮膚のかゆみ、感覚異常
- 月経過多などの異常
上記の症状に当てはまると判断されるとさらなる検査へと進みます。
- 自律神経の異常の判定・・・副交換刺激型などの瞳孔異常をみる
- 中枢神経を含めた視覚検査・・空間周波数特性検査異常をみる
- 眼球の追従機能低下の検査・・眼球の運動中枢の障害をみる
- 脳の画像検査(SPECT)・・脳の血流量の変化をみる
化学物質過敏症の治療
診断はされるようになった化学物質過敏症ですが治療に関してはこれといった方法は確立されていないようです。
まずは自分が何に反応するのかを知り、その原因物質を避けることが最もとるべき行動かと思われます。一般的に行われている対処法としては
軽い症状の方であれば、化学物質から隔離された環境で数週間~数ヶ月過ごすことで体調が回復することもありますが、長いお付き合いになる方も多いようです。
専門的に治療に取り組んでいる病院もあるようなので一人で悩まずにご相談ください。
私も、鍼灸治療で何ができるのか模索中です。
冒頭にも書きましたが、この病気は決して特別なものではなく、「誰でも発症しうる病気」です。
私も何人かの過敏症の方と関わらせて頂いていますが、一度発症してしまうと通常の社会生活が送れなくなり、家を離れ、家族と別れ、孤独に病気と向き合っていく事になる可能性があります。
あるデーターによると潜在的には100万人近くの過敏症の方が日本にいるとの報告もあります。
むやみに怖がる必要もありませんが、日々接触し続けている身の回りの化学物質を再認識し、予防することが重要だと思います。
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