
はじめに
「肩が上がらない」「後ろのポケットに手が回らない」——こうした症状で来院される方の中には、単なる「肩こり」ではなく、腱板という組織そのものが傷んでいるケースが少なくありません。今回は、草刈り作業をきっかけに腱板損傷(肩甲下筋断裂)を発症された70代男性の症例をご紹介します。
主訴・経過
70代男性。草刈り作業中、徐々に肩の痛みが強くなり、次第に
- 腕を挙げる動作(挙上)ができなくなる
- 後ろのポケットに手を伸ばそうとすると激痛が走る
という症状が出現しました。近医整形外科を受診したところ「肩の炎症」と診断され、投薬による経過観察となりましたが、症状の改善が見られなかったため当院を来院されました。
エコー所見

当院でのエコー(超音波)観察では、肩を外旋させた際に、結節間溝からLHBT(上腕二頭筋長頭腱)の逸脱が確認されました。腱板損傷を疑い、医療機関へ再検査を依頼したところ、肩甲下筋の断裂が判明しました。
ご本人が手術を望まれなかったため、保存療法(手術をしない治療)の方針で、鍼治療・モビライゼーション・リハビリを継続することになりました。
治療内容
① 鍼治療(エコーガイド下)
エコーで患部を確認しながら、以下の関連筋にアプローチしました。
- CHL(烏口上腕靭帯)
- 肩甲下筋
- LHBT(上腕二頭筋長頭腱)
- 棘下筋
エコーガイド下で刺鍼することで、炎症部位や神経・血管を避けながら、必要な深さ・部位に正確にアプローチできます。
② 徒手療法(モビライゼーション)
肩甲骨の動きを引き出すことを目的に、
- 前鋸筋のモビライゼーション
- 上肢のモビライゼーション
を行いました。腱板が損傷すると、肩甲骨と上腕骨の連動した動き(肩甲上腕リズム)が崩れやすいため、周辺組織の滑走性を取り戻すことを重視しました。
③ 運動療法(リハビリ)
段階を踏んで負荷を上げていきました。
- まずは軽い負荷での自重運動から開始
- 徐々にセラバンドを使った運動を追加
- 腹圧トレーニング、スタビライゼーショントレーニングへ移行
肩そのものだけでなく、体幹の安定性(腹圧)を並行して鍛えることで、肩への負担を減らしながら機能回復を図りました。
経過・結果
- 約3ヶ月:草刈り作業に復帰
- 約10ヶ月:林業の仕事に復帰
腱そのものの断裂は自然に修復されるわけではありませんが、周囲の筋肉(インナーマッスル・肩甲骨まわりの筋群)の機能を高めることで、断裂部にかかる負担を減らし、日常動作やお仕事への復帰を目指すことができた症例です。
腱板損傷・腱板断裂とは
腱板とは、肩関節を安定させている4つのインナーマッスル(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の腱の総称です。加齢による組織の変性に加え、今回のように草刈りや農作業、スポーツなど腕を繰り返し使う動作がきっかけで発症することがあります。
四十肩・五十肩と症状が似ているため見分けがつきにくいことがありますが、四十肩・五十肩が関節包の炎症であるのに対し、腱板損傷は腱そのものが切れている点が異なります。エコーで観察することで、この違いを確認できます。
肩が思うように上がらない、後ろに手が回らないといった症状がある場合は、自己判断せず、一度ご相談ください。




















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