はじめの一歩通信

はじめの一歩通信Vol.79PMS・月経トラブルと鍼灸

はじめの一歩通信Vol.79PMS・月経トラブルと鍼灸

我慢するのが当たり前になっていませんか

イライラ、頭痛、むくみ、腰の重だるさ、そして月経痛。PMS(月経前症候群)や月経困難症の症状は多岐にわたりますが、「毎月のことだから」「体質だから」と我慢している方が少なくありません。今回は、月経痛やPMSがなぜ起こるのか、どこまでがセルフケアで対応でき、どこからが受診の目安なのか、そして鍼灸による温熱刺激がなぜ効果的なのかを、解説します。

月経痛・PMSの背景

月経前から月経期にかけては、子宮内膜からプロスタグランジンという物質が多く分泌されます。これは子宮を収縮させて経血を排出する役割を担う一方、量が多すぎたり過敏に反応したりすると、強い痛みや骨盤内の血流低下を引き起こします。血流が滞ると組織に酸素が届きにくくなり、痛みや冷え、だるさがさらに強まるという悪循環が生まれます。またホルモンバランスの変動は自律神経にも影響し、イライラや気分の落ち込みといった精神的な症状にもつながります。

こうした「機能性」の月経痛・PMSがほとんどですが、なかには子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫といった基礎疾患が痛みの背景に隠れているケースもあります。年々痛みが強くなっている、鎮痛薬が効きにくくなってきた、経血量が急に増えた、月経以外の時期にも痛みがある、といった変化がある場合は、セルフケアだけで様子を見ず、まず婦人科での検査を受けることをおすすめします。基礎疾患の有無を確認したうえで対処法を考えることが、遠回りに見えて一番の近道です。

生活習慣とセルフケア

基礎疾患がない機能性の月経痛・PMSであれば、生活習慣の見直しだけで症状が軽くなることも多いとされています。特に重要なのが睡眠と自律神経のリズムです。自律神経は、日中に活動を支える交感神経と、休息時に働く副交感神経が、本来一日の中でリズムよく切り替わることでバランスを保っています。睡眠不足や就寝時刻の乱れが続くと、夜になっても交感神経優位の状態が続きやすくなり、骨盤内を含む全身の血流が収縮したままになりがちです。PMSの時期はただでさえホルモン変動で自律神経が揺らぎやすいため、睡眠リズムの乱れが重なると症状を強めてしまうことがあります。

  • 毎日できるだけ同じ時刻に寝起きし、体内時計を整える
  • 就寝前は照明を落とし、スマートフォンなどの光刺激を控える
  • 冷たい飲食物を控え、根菜類など体を温める食材を意識する
  • 軽いウォーキングやストレッチで骨盤まわりの血流を保つ
  • 月経前後は無理に予定を詰め込みすぎない

生活習慣を整えたうえで、さらに有効なのが温熱刺激です。

仙骨・次髎(じりょう) 〜体性内臓反射

次髎は、仙骨後面にある第2後仙骨孔(上から2番目のくぼみ)に位置する膀胱経のツボで、八髎穴と呼ばれる仙骨部の要穴群の一つです。東洋医学では骨盤内の気血の巡りを整え、月経不順や腰痛、頻尿などに用いられてきました。

現代医学的に見ると、仙骨部の皮膚は子宮や卵巣を支配している神経(仙骨神経叢、主にS2〜S4)と脊髄でつながっています。そのため仙骨・次髎を温めることは、間接的に骨盤内臓器へ「温まった」という信号を送ることになります。これは体性内臓反射と呼ばれ、皮膚や筋肉への刺激が、同じ神経分節を共有する内臓の血流や働きに影響を与える現象として生理学的に確認されています。仙骨は子宮の支配神経と分節が近いため、比較的短い経路でダイレクトに作用しやすいツボと言えます。

三陰交 〜中枢を介した自律神経の調整

三陰交は、内くるぶしの最も高い位置から指4本分(約3寸)上がった、脛骨の後ろの際にあるツボです。脾経・肝経・腎経という3つの経絡が交わる要穴とされ、東洋医学では血の巡りや水分代謝、生殖機能に関わるとされています。

三陰交は下腿にあるため、仙骨とは異なり子宮と同じ神経分節を直接共有しているわけではありません。しかし刺激は求心性の神経を介して脊髄に入り、脳幹や視床下部といった自律神経の中枢へ伝わることで、子宮動脈へ向かう交感神経の緊張を緩めることが、電気鍼を用いた複数の研究で確認されています。交感神経の緊張が緩むと血管が拡張し、骨盤内の血流が増加します。つまり三陰交は、仙骨のような直接の反射経路とは異なり、脳を介したもう一段階長い経路で骨盤内の血流に働きかけていると考えられます。

おわりに

月経痛・PMSは「体質だから」と一括りにせず、まずは基礎疾患の有無を確認し、そのうえで生活習慣を整え、仙骨・次髎や三陰交への温熱ケアを取り入れていくのが遠回りに見えて一番の近道です。つらさが強い場合は我慢せず、婦人科の受診とあわせて、鍼灸によるケアも選択肢の一つとしてご相談ください。

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