両手指先の冷えと痛みで来院された患者さん(Nさん)の症例です。
60代男性、職業は農業をされています。
2年前の冬から、両手指先の冷えを感じるようになり、どんどん強くなっていきました。
指先は真っ白になり、ひどい時には、赤紫色に変色します。
そして次第に膿が溜まるように…。
整形外科に行き、膿を切開して出したり、血行改善の薬の服薬、塗布などをしていましたが、症状は悪くなる一方。
毎日、畑に行き、収穫や草刈り、鶏のお世話などをされていますが、寒い朝の収穫や、草刈り機を使っての除草作業が痛みのため辛くなり、来院されました。
来院された日は、寒い日の昼下がりでした。
朝、農作業をされた手は指先が白く、正常な皮膚の色と白くなっている境界がくっきりと分かれています。
レイノー現象です。
レイノー現象
レイノー現象とは、寒冷刺激や精神的な緊張により、手足の末梢血管が収縮し、血液の流れが悪くなる現象です。
指先は蒼白、暗紫色に変色し、痛み、痺れ、冷感を伴い、ひどくなると皮膚潰瘍を引き起こします。
寒さなどの刺激で症状が引き起こされますが、様々な原因疾患があります。
- 膠原病
- 動脈硬化症、バージャー病(血管の炎症)
- 振動による障害(チェンソーや草刈り機など)
- 手根管症候群
- 末梢神経炎など
一般的な治療としては、
- 寒冷刺激の予防
- 疲労・ストレスの軽減
- 血管拡張薬・血液循環改善薬
- 原因疾患の治療
などが行われます。
原因疾患がはっきりしている場合は治療が進みやすいのですが、はっきりとした原因がない場合が多く、対症療法・経過観察が多いようです。
Nさんも、はっきりとした原因疾患は無く、血流改善の薬と経過観察が行われていました。
レイノー現象と鍼灸治療
Nさんは、165cm,48kg少し小柄な方です。
ここ数年、体重も落ちてきているようです。
指先の温度は、19℃~24℃。非常に低いです。
昔は、空手をしたり、大きなバイクで走り回ったり、すこしやんちゃで楽しい暮らしをしていましたが、ここ最近は、落ち込むことも多く、お酒もタバコも増えているようです。
一人暮らしで自炊をしていますが、お酒が好きなので、おつまみのような料理が多く、野菜は少ないようです。
家は日の光の入りにくい湿気の多い立地で、お風呂もシャワーで済ませる事が多いようです。
背中の円背がすすみ、胸椎の可動域も非常に少く、肩、頸部の筋緊張もありました。
治療は、胸椎、頚椎、肋骨の可動域を上げ、筋緊張をとり、深い呼吸ができる姿勢にカラダを作り変えると共に、井穴(指先のツボ)から刺絡治療、を行いました。
そして、生活改善。
タバコ、お酒、食事、入浴、運動、ストレス対処…。
鍼灸治療の良さは、患者さんに触れて治療を行いながら、自然な形で色んなお話が出来ること。
60を過ぎた人生の大先輩に、30代の私が面と向かって
「これはだめ!こうしてください!」
といっても素直に聞いて頂けません。
なんとNさんは、10代から欠かすこと無く吸い続けたタバコも辞めることができました。
毎日足湯やお灸をして、食事内容も改善されたようです。
3回めの治療では、寒くて、白くなっても戻りが早くなりました。
1ヶ月後には指先が白くなる日はまれになってきました。
11月から始めた治療で、段々寒くなっている中で、中々良い反応です。
その後も、時々白くなることはあるが、痛みや痺れは殆ど感じずに冬を越し、3月になると指先の潰瘍も無くなり、経過観察となりました。
生活改善、意識改善が効を奏した症例だと思います。
しかし、人間は良くなると甘くなるもので、最近はタバコを吸い始めているという噂も…。
今年の冬も無事に過ごせるといいのですが…。
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